理学療法士の三好です。今回は、変形性膝関節症に伴って鵞足に痛みが生じている人に対する理学療法で効果的なものを紹介していきます。鵞足に痛みがある患者さんを担当しているけど、なかなか痛みが改善できないといった悩みがあるセラピストの方はぜひチェックしてみてください。
鵞足とは?
縫工筋、薄筋、半腱様筋により構成されます。
右大腿後面 左から縫工筋、薄筋、半腱様筋
・ヒューマンアナトミーアトラスより引用
縫工筋の起始、停止、作用、神経支配
- 起始 上前腸骨棘
- 停止 脛骨粗面の内側
- 作用 股関節屈曲、外転、外旋、膝屈曲、下腿の内旋
- 神経支配 大腿神経 L2、3
薄筋の起始、停止、作用、神経支配
- 起始 恥骨結合
- 停止 脛骨粗面の内側
- 作用 股関節屈曲、内転、膝屈曲、下腿の内旋
- 神経支配 閉鎖神経前枝 L2から4
半腱様筋の起始、停止、作用、神経支配
- 起始 坐骨結節
- 停止 脛骨粗面の内側
- 作用 股関節伸展、内転、内旋 膝屈曲 下腿の内旋
- 神経支配 坐骨神経の脛骨神経部 L4からS2
鵞足炎の原因とは?
鵞足の伸張ストレス
【鵞足炎の原因】
脛骨回旋の不安定性により鵞足腱や鵞足滑液包表面に対する直接的な摩擦や圧迫が持続的に加わり、過大な応力を生じる。
外反膝、knee in toe outを呈するアライメントによる伸張ストレス。
脛骨の不安定性の改善やアライメントの修正をするためのプログラムを考えよう。
— 三好 裕也 (@yuyampt) 2018年4月15日
内側型変形性膝関節症の場合
【内側型膝OAの鵞足炎】
内側OAによる鵞足炎では荷重時の大腿骨の内側への移動量が大きい。
半腱様筋よりも縫工筋、薄筋は長い線維束、下腿筋膜で覆われており可動性、滑動性が少ない。
そのため大腿骨の内側偏移の際、縫工筋、薄筋にストレスがかかりやすい。
— 三好 裕也 (@yuyampt) 2018年4月15日
股関節周囲筋の筋力低下
股関節外転、外旋筋である中殿筋、大殿筋の筋力低下があることによって、動作をする際にknee in toe outとなってしまっているケースは多いです。動作中でなくても安静時から姿勢が崩れてしまっている例がほとんどです。
腹部筋力低下
体幹筋の筋力低下により、骨盤が前傾し、股関節が内転、内旋していることからknee in toe outしてしまっている場合も多いです。結果として鵞足にストレスがかかってしまっています。
下腿内旋可動域低下
下腿の内旋可動域が低下していることによりknee in toe outとなり結果として鵞足にストレスがかかっています。膝蓋下脂肪体や膝蓋靱帯の硬さ、大腿二頭筋の筋力低下によって下腿が外旋できない状態になっている事が多いです。
足関節背屈可動域低下
足関節の背屈可動域が低下することにより、荷重時に背屈可動域を代償するため足関節が外反し、膝関節が内反します。結果として、鵞足にストレスがかかります。足関節の背屈制限の原因としては、色々考えられますが、腓腹筋の短縮によるものが多いです。
鵞足炎の評価 原因の鑑別方法
圧痛の有無
鵞足を構成する筋を一つ一つ触診して圧痛の有無を確認します。個別に触診できればこれで判断可能です。
縫工筋
股関節伸展、内転位から膝を伸展させて疼痛が生じるかどうか確認する。
薄筋
股関節外転位で膝の伸展を強制した時に疼痛が生じる。
変形性膝関節症で膝伸展制限がある場合、薄筋の選択的なストレッチにより改善を認める場合がある。
半腱様筋
股関節屈曲、内転位で膝を伸展した時に疼痛が誘発されるかみる。股関節屈曲により縫工筋、内転により薄筋を緩めた状態で行う。
鵞足炎を改善しよう。治療、アプローチ方法
鵞足炎改善の流れ
- 筋の癒着、滑走性の改善
- 筋のリリース
- 筋の短縮の改善 ストレッチ
- ROM訓練
- 弱化筋の筋力強化
- 動作訓練、運動学習
この流れで訓練を進めると改善しやすいです。筋が癒着していたり、短縮しているとROM訓練や筋力トレーニングの効果が半減します。効果をあげられるように準備を整えてあげること。
縫工筋、薄筋、半腱様筋の癒着、滑走性の改善
癒着の剥がし方
- 筋を触診。
- 直接筋繊維をつかみます。
- 筋繊維に対して垂直に動かします。
- 癒着している筋ははじめは動きにくいです。
- 左右差を確認しましょう。
- ある程度動いてきたら
- 筋を掴んだまま、自動運動をしてもらいます。
- 筋が収縮、弛緩し滑走することで癒着が剥がれます。
- 硬いうちは筋収縮がうまくできないくらい抵抗を感じます。
- 何回か繰り返すと滑走性が改善されていきます。
縫工筋、薄筋、半腱様筋のリリース
直接、筋繊維をリリースします。
筋を起始から停止まで触診していき、特に硬くなっている部位を探します。硬くなっている部位を見つけたら、そこをリリースしていきます。筋繊維はコラーゲン繊維とエラスチン繊維が入り組んでできていますので、繊維をほぐすようにリリースしていきましょう。
リリースした後、柔軟性が改善しているかどうか再評価しましょう。
筋短縮の改善、ストレッチ
ストレッチは持続的にしっかり時間をかけましょう。
30秒以上は持続してストレッチをかけてあげると効果的です。文献的にも最低でも20秒以上のストレッチが必要と言われています。
鵞足炎の原因の鑑別方法でも書きましたが、縫工筋、薄筋、半腱様筋は個別にストレッチをかけていきましょう。
股関節外転筋、外旋筋の筋力強化
中殿筋、大殿筋、深層外旋筋の筋力強化を行っていきます。knee in toe out の修正に役立ちます。
膝関節戦略から股関節戦略へシフトさせることがポイントです。
腹部筋力強化
下腿内旋可動域改善
下腿の回旋可動域を改善していきます。
回旋可動域の制限因子としては、膝蓋下脂肪体や膝蓋靱帯の硬さが結構関わっています。パテラ周囲の硬さをしっかりと改善することと合わせて、下腿の内旋運動を行っていきましょう。
伏臥位で、脛骨を内旋位に入れた状態で、外側ハムストリングスの収縮エクササイズをしてあげると内旋可動域改善に効果的です。
動作訓練、運動学習
- ランジ
- 片脚スクワット
運動を通してknee in toe outしないように動作指導をしていきます。同時に筋力強化訓練の効果が出ているかどうか経過を見ていきます。
変形性膝関節症に伴う鵞足炎の改善方法 まとめ
- 鵞足の走行を把握し、触診できるように。
- 鵞足炎の原因は、knee in toe outのアライメントが関係。
- 鵞足は筋が密接しているので、筋間の癒着をしっかり剥がしてあげる。
- 滑走性改善、リリース、ストレッチ、筋力強化、動作訓練の順に組み立てる。
- 中殿筋、大殿筋、腸腰筋といった股関節周囲筋がしっかりと働くようにトレーニングしていく。
以上、鵞足炎に対する理学療法のまとめでした。